システムトレードを考える時間
証券化は資金の需要者と供給者双方の要求を満たすことができます。
リスクを細分化して特定の資産だけを対象に取引することを可能にするからです。
この意味で証券化は第一に企業が保有する資産全体から特定の資産を切り離し取引するリスクを対象資産のリスクに限定するという機能を果たすのです。
証券化の対象となる資産の価値はさらに細かく分類される様々な要因に従って変動します。
例えば固定金利の住宅ローン債権を考えてみてください。
債権の価値は返済金として将来支払われるキャッシュフローの現在価値ですからこの現在価値を変動させる要因が問題となります。
固定金利の住宅ローン債権については大きく分けて以下の三つの要因がそれにあたります。
第一の要因は市場で成立する金利が変動する「金利リスク」です。
いま元利支払いは固定金利としていますので貸し手が将来受け取る元利金返済額はあらかじめ固定されています。
このため名目で見るとあたかもリスクはないように見えます。
しかしながら実質は違います。
ローンの実質上の価値は将来支払われる返済金を市場金利で割引いた現在価値です。
当然割引率である金利が上昇すれば名目で固定された将来の元利支払い金額の現在価値は(より大きく割引かれるので)下落しローンの価値は下がります。
逆に割引率である金利が下落するなら名目で固定された将来の現在価値は上昇します。
いずれにせよ固定金利の住宅ローンの現在の価値は変動する金利と逆方向に変動してしまいます。
ローンが返済されない事態が生じるという「信用リスク」「デフォルト・リスク〕です。
住宅ローンを借りた人が皆計画通りに完済できるわけではありません。
仕事の事情予期せぬ事故天災等様々な理由によって返済できなくなる事態が生じる場合があります。
個々の理由はどうであれこれは貸し手の立場からすれば「貸したお金が約束通りには返ってこない」というリスクになります。
住宅ローンに限らず債権には常にこの信用リスクがつきまといます。
ローンが当初の返済計画よりも早く償還されてしまう「期限前償還リスク」、または「プリペイメント・リスク」です。
例えば市場で成立する住宅ローンの借り入れ金利がローンの契約時に決めた支払い金利よりも低くなった場合を考えてみましょう。
このとき借り手にとっては下がった市場借り入れ金利でお金を借りそのお金でいままでのローンを返してしまった方が将来の金利支払い負担が減る分だけ得をすることになります。
そこで借り換えを行ってローンの残金を期限前に償還してしまおうということになります。
ところが貸し手からすれば予定していた将来の金利収入が減ってしまうのでこれは損になってしまいます。
このような低金利による借り換え以外にも期限前に償還する様々な理由が考えられますがともかく住宅ローンでは期限前償還(プリペイメント)をする権利が借り手に認められているため貸し手にとっては返済金額が不確実になり価値が変動するリスクが生じてしまうのです。
このように住宅ローン債権の例一つを取ってもその価値は様々な要因によって変動することがわかります。
もちろん個々の資産には固有の特性があります。
他の種類の資産まで考えればその価値はさらに様々な要因によって変動することになります。
それぞれの要因の区分は場合によっては曖昧であり分け方自体がやや恣意的ではありますが理解を助けるために価値変動のリスク要因を大胆に分類するならば、おおよそ次のように分けられます(リスクの細分化に敏感な最近ではさらに細かい範躊でリスクを分類することもあります)。
一般には金利の他に株式為替商品不動産の価格の変動等が含まれます。
市場で取引され決定される資産価値の変動リスクの総称がこれにあたります。
お金が返ってこない債務不履行のリスクを「信用リスク」と呼びます。
取引相手の支払い能力によって定まるリスクです。
信用リスクはあらかじめ定められた金額の支払いを契約する債券の取引では特に重要です。
最近では企業や金融機関の社債や借り入れでも格付けが重視されるなど信用リスクが重要度を増していることは周知の事実です。
証券化の核をなす債権の証券化でも当然信用リスクのコントロールは重要な課題になります。
先の例では住宅ローン債権という資産の信用リスクを挙げましたが証券化金融商品を発行する段階ではこれに加えて証券の発行者等の信用リスクも重要な問題となります。
リスクをまとめて「その他のリスク」と分類しておきます(最近ではさらに細かく分類することもしばしばありますがここではひとくくりにしておきます)。
市場リスクでも信用リスクでもないリスクです。
「その他」と言っても大切でないわけではありません。
住宅ローンの証券化金融商品として資産の証券化の代表例であるMBSやCMOの設計や取引においては期限前償還します。
また保険リスクの証券化の対象である大規模自然災害による被害への保険金支払い額や天候リスクの証券化の対象である気温の変動等もその他のリスクの重要な例です〔これらの自然災害や天候変動のリスクは人間の行為とは無関係に起こりしかも損害だけを引き起こすのでしばしば「純粋リスク」と呼ばれます〕。
個々の資産で特性こそ違いますがどのような資産の価値変動もここに挙げた「市場」「信用」「その他」のリスク要因に大きく分解することができます。
このようなリスク要因の観点からすればちょうど企業全体の価値変動のリスクがその保有資産の価値変動のリスクの束として与えられたように個々の資産の価値変動のリスクもいわば様々なリスク要因をひとまとめにした「リスク要因の束」とみなすことができるのです。
対象とする資産を特定化することで証券化によって取引されるリスクは保有資産全体のリスクの束から分離され特定化されました。
では同様に今度は証券化の対象となった資産が抱えるリスク要因の束を個々のリスク要因に細分化して取引することはできないでしょうか。
実はこれもある程度可能です。
信用リスクの調節です。
例えば住宅ローンの証券化では対象資産を構成する個々のローンに第三者の返済保証を付けることが行われます。
こうすればローンの信用リスクは返済を保証する者が負担することとなり証券化に関わる信用リスクというリスク要因を減らせます。
同様に一般の証券化でもしばしば発行証券の支払いに金融機関等の第三者の信用保証を付けることで証券化に関わる信用リスクの削減が図られます。
他の方法もあります。
例えば一つの対象資産が生み出すキャッシュフローを原資に支払いを優先的に行う優先債券と支払い順位がその後に置かれる劣後債券を同時に発行するというように支払いの優先順位が異なる複数の証券化金融商品の発行が行われます。
こうすることで優先債券による支払いはより確実に行われることになり優先債券の支払い金に関する信用リスクをより小さくすることができるからです(もちろん劣後債券の支払い金に関する信用リスクは反対に高くなります。
正確に言えば劣後債券の信用リスクを大きくするという犠牲を払って優先債券の信用リスクを小さくするわけです)。
債権の証券化は証券化全体の中でも大きな比重を占めますからこのような信用リスクのコントロールは証券化において非常に重要な項目となります。
その他のリスクの調節も行われます。
例えば住宅ローンの証券化では期限前償還(プリペイメント)リスクのコントロールが重要です。
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